社労士業務の未経験者向け~独立開業・障害年金請求の実務①・受任編~

社労士業務未経験者が果たして独立開業をしてやっていけるのか?

不安の大きな一つは、社労士業務の実務経験がなく、実務イメージがわかない点があります。そんな社労士業務の実務未経験者のために、今回は、

「障害年金請求の実務」

のイメージをもってもらいたいと思いブログを書きました。ご興味ある方は最後までご覧ください。

第1章 はじまり

ある日の昼休み、見知らぬ電話番号から電話がかかってくる(事務所への電話が私の携帯電話へ転送されてくる)。

私 「お電話ありがとうございます。社労士ケビン事務所です。」

客(以下A男という)「すみません、障害年金のことをお聞きしたいのですが・・・」

私 「いいですよ。どんなことをお話しすればよいですか?」

A 「実は、近くの街角相談会に障害年金の手続きについて相談しに行ったら、行政書士の〇〇さんが、障害年金のことなら社労士のケビンさん(私)に電話すると良いと言っていたので電話してみました。」

私 「行政書士の〇〇先生ですね。存じてます。相談会ではどんなお話をされましたか?すでに障害年金の請求まで具体的に検討してたりしますか?」

A 「そうなんです。実は、障害年金を請求したいのは私ではなく、私の妻なんです。妻の代わりに障害年金の請求をしようと思ったのですが、なかなかうまく進まず、私も日中仕事をしているので、全く進まないのです。年金事務所にも相談に行ったのですが、結局のところよくわからなくて・・・。書類も大変そうなので、誰かにお願いできないかと思って近くの街角相談会に行ったんです。」

私 「そうなんですね。確かに障害年金の請求手続きは少し大変なので、誰かのサポートがあるといいかなと思います。私、社会保険労務士といって、略して社労士っていうんですけど、聞いたことありますか?障害年金の請求手続きをサポートできる仕事なんです。」

A 「社労士っていう存在はあまり知らなくて、実はこの間の相談会の後ネットで調べてはじめて社労士さんが障害年金の請求の手伝いをしているって知ったんです。すみません・・・」

私 「いえいえ、知らなくても大丈夫ですよ。では、障害年金の請求手続きを私が代わりにやるとすると、一度事務所へ来てもらうか、私がそちらにお邪魔しますがいかがでしょうか?お話を聞いたうえで、障害年金請求ができるかどうかの判断をしてみたいと思います。すみません、お住まいはどちらですか?あっ、お名前もまだお聞きしておりませんでしたね、失礼しました」

A 「〇〇といいます。〇〇市に住んでます。妻を連れて一度事務所へ伺いたいと思います。平日は会社に私が行っているので、できれば土日がいいのですが、お休みですか?」

私 「〇〇さんですね。〇〇市なら近いですね。今週であれば、土曜日の午後は事務所にいますので、来ていただいて問題ありません。昼前後に予定があるので、そうですね、午後2時くらいはいかがでしょうか?」

A 「わかりました。お休みのところありがとうございます。何か持ち物とかありますか?」

私 「以前に一度年金事務所に相談に行ったということですので、その際に年金事務所でもらった書類が何かありませんか?あればそれらを持ってきてください。」

A 「あります。妻の年金記録や障害年金請求の書類などあります。」

私 「それでよいです。奥様は現在何か医師から診断を受けてますか?」

A 「うつ病です」

私 「わかりました。詳細は事務所に来ていただいた際におきしますが、概略を掴むため、奥様が体調を崩されたころの状況、その後の通院歴、当時から今に至るための生活状況などをざっくりでいいのでまとめてきてもらってよいですか?わかる範囲でいいです。難しければ私がヒアリングしますので、最低限、通院等した医療機関の名前、時期だけまとめておいてください」

A 「わかりました。かかった病院は2つなので、すぐにまとめられます。ちなみに相談料はかかりますか?」

私 「正式受任となれば特に相談料は不要ですが、受任できず相談で終わる場合には1時間○○○円いただくのでお手数ですがご準備をお願い致します」

A 「わかりました。それでは今週の土曜日の午後2時、宜しくお願いします」

私 「こちらこそお待ちしております。気を付けてご来所ください。事務所の場所はわかりますか?」

A 「大丈夫です。〇〇さん(私)のホームページを見ましたので、場所は大丈夫です。」

私 「ホームページをご覧いただきありがとうございます。では失礼します。」

ガチャ(電話をきる)

私の事務所は障害年金業務を主力業務にしてはいないのですが、開業当初年金相談業務をしていた経験から、ちょこちょこと紹介を頂くことが多いです。また、ホームページがあるため、「地域+障害年金+社労士」で検索した人が私のホームページをみつけ電話をしてくることもあります。紹介など、基本的にはなんらかの「縁」がある方の障害年金サポートをしようというのが私の現在のスタンスです。あまり障害年金の営業はグイグイしません。(人にもよりますが、私は障害年金業務=ビジネスと単純に割り切ることができないので、縁があった方のみ、全力でサポートしています)

第2章 面談

土曜日の午後2時、Aが妻Bを連れて来所。応接間へ通す。

私 「こんにちは。足を運んでいただきありがとうございます。社労士のケビンです。宜しくお願いします。」

A 「お時間いただきありがとうございました。こちらが妻のBです。普段は家にずっといて外には出ないのですが、ケビンさんのことを説明して、何とか連れてこれました」

B 「本日はありがとうございます。」

私 「Bさんはじめまして。社労士のケビンです。今日はお越しください本当にありがとうございます。お身体大変だと思いますので、なるべく短時間で済ませますのでよろしくお願いします」

私 「Aさん、障害年金の制度について、およその概略は知っていますか?年金事務所で説明を受けましたか?」

A 「うーん、正直まだよくわかっていないです。障害年金を請求すればだれでももらえるのかどうか、あまり見当がついていません。」

私 「そうですか。では、ざっくりな説明をしますね」

【説明概略を紙に書きながら説明】

●一定の障害の状態にあり、日常生活等に支障がある方に障害年金がでる。

●障害年金は、大きく分けて2つあり、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」。もらえる年金額に違いが出る。どちらになるのかは、今回のうつ病発症に関して初めて医療機関に行った日が、お勤め中(社保加入中)だったのか、そうではなく旦那さんの扶養になっていたときか(第3号被保険者等)、によって決まる。この初めて医者に行った日を「初診日」という。

●障害年金というのは、初診日から1年6か月たった時点において、一定の障害の程度にあると判定されると年金がもらえる。1年6か月たった時点を障害認定日という。障害の程度というのは、重いほうから1級、2級、3級の三つがある。イメージとしては、1級=ベット中心の生活、2級=自宅中心の生活、3級=仕事が一応できるが制限がある状態、と考えてもらうと良い。

●障害基礎年金は1級と2級だけ、障害厚生年金は1~3級まである。そうすると、初診日に社保加入している方がもらえる可能性が高まる(3級があるから)。ちなみに障害厚生年金には最低保証額があり、だいたい年間55万前後。

●ただ、障害年金がもらえるレベルの障害の状態にあったとしても、保険料の未納等があるともらえないので、そこはあたらめて年金事務所で納付要件を後日確認させてもらう。

●障害年金請求をして、基本的には、障害認定日において、障害の程度が1級から3級までのどこに該当するのかを書面で審査する(医師の診断書と病歴・就労状況等申立書)。この二つの準備が大事。認定日請求が基本であるが、障害認定日から1年以上過ぎている場合には、事後重症請求が加わる。

上記のような概略を説明するとAはおぼろげに状況をつかんでくれた模様。

そのうえで、妻のBの日常生活について簡単なヒアリングをしていく。(Bは終始静かであり、話をすることがかえって負担と見受けられたため、詳細はAから聞くこととした)

私 「では、奥様の状況をざっくり聞いていきますので、Aさんよろしいですか?」

A 「はい、大丈夫です。あっ、この書類が以前年金事務所でもらってきたものです。先にご確認をお願いします」

私 「ありがとうございます。ちょっと確認させていただきます。」

Aが持っていたのはBの年金記録。どうやら会社員Aと結婚後、ずっと扶養できていた模様(第3号被保険者)。もう一つ持っていた書類は、年金事務所で障害年金の相談をする際に窓口で書く質問票(名称はともかく)。これには、初診日がいつで、その時どこの医療機関にかかっていて、その後はどうかがかかれている。これによると、初診日は、第三号被保険者期間中にあるので、障害基礎年金の請求となりそうだとわかる。1級または2級の状態にあるかどうかがポイント。

私 「大きな流れがわかりました。〇年●月〇日にC医療機関に行ってますので、ここが一応初診日となります。そこから約1年ほどそのC医療機関に通院等して、その後、約5年ほどD医療機関に移り、現在までそこに通院しているということですね」

A 「そうです。」

私 「初診日が旦那さんの扶養になっている間にありますので、先ほど説明した障害基礎年金の請求となりそうです。そうすると、初診日から1年6か月の時点で、1級か2級の状態にあるのかどうかが障害年金がでるかどうかのポイントになります。ハードルやや高めですね」

A 「そうですか。」

私 「障害年金は、初診日から1年6か月の時点でどの程度の障害なのかを審査してもらう、いわゆる認定日請求というものが基本になります。ただ、その時点で1級または2級の状態になかったとしてもがっくり来る必要はなく、今現在の障害の状態をもとに障害年金が出るかどうかの請求もできます。これを事後重症請求といいます」

A 「そうなんですね。初診日から1年6か月頃、たしかに妻は調子が悪かったのですが、先ほどの家中心のレベルにあったかというのなんとも言えないので、ちょっと心配でしたが・・・。今は当時よりかなり悪化して、完全に家中心の生活となっています。今日は奇跡的に連れてこれましたが・・・。」

ここで、妻Bが発症したころから今までの流れを簡単にヒアリングする。

聞き取りのポイントは、うつ病により、どの程度日常生活に支障があったかどうか。

妻のBさんがもしも単身で生活していたとして、どの程度日常生活に支障があるかどうかを聞き取っていきます。炊事、洗濯、洗面、入浴、食事、外出、買い物、着替え、トイレなど、旦那さんのサポートがないとした場合にどのくらい支障がでるのか、必要な範囲で聞き取ります。(聞き取りのポイントは、診断書と病歴申立書を日本年金機構のホームページからダウンロードしてもらうとそこに記載されている項目がわかるので、それを聞き取りポイントにしていただければと思います。)

ヒアリングをしつつ、Bさん本人の状況・会話等を考えあわせると、およその見当がだいたいついてきます。今回は、認定日請求は△(2級該当になるかどうか不確定)だが、事後重症請求は2級相当というストーリーが想定できたので、障害年金請求を受託することにしました。

私 「今回のケースでいうと、医療機関でもらう書類は3つです。まず、初めて受診したC医療機関から【受診状況等証明書】をもらいます。これは、初診日を証明してもらう書類です。次に、現在通院しているD医療機関から、診断書を2枚書いてもらいます。1枚目は認定日請求用の診断書。認定日以後3か月以内の症状が書かれたものです。2枚目は、事後重症請求用の診断書。請求前3か月以内の現症日の診断書です。担当医師とは障害年金について何か話をしていますか?」

A 「はい。半年くらいまえから、担当の医師から障害年金の請求をしたほうがいいのではと言われてました。ですので、診断書は書いてもらえると思います」

私 「それなら話が早いですね。念のため、私が診断書作成の依頼文を作成しますので、できたところで担当医師に渡してもらえればと思います。」

A「わかりました」

私 「C医療機関からは、証明をもらえますかね?」

A 「大丈夫だと思います。前に一度C医療機関に電話して聞いたことがあって、その時はカルテあるから証明できると言われた気がします」

私 「それはよかったですね。受診状況等証明書がもらえずに苦労することがあるのですが、今回は大丈夫そうですね。奥様の状態も考えると面談はこれくらいにしたほうが良いので、今日はこれまでとします。改めて、私が奥様の障害年金の請求手続きを受託するということでよろしいでしょうか?」

A 「はい。ぜひともお願い致します。妻もよいと言ってます。」

私 「ありがとうございます。それでは手続きを進めるにあたって一度年金事務所へ行き納付要件等の確認をしてきますので、委任状にサインをもらってよいですか?」

B 「はい。」 (サインしてもらう)

私 「ありがとうございます。それと、あらかじめ社労士報酬について説明しておかなければと思いますので、もう少し時間よろしいですか?」

A 「大丈夫です」

私 「障害年金請求の手続き一式の報酬は、だいたい〇万前後とお考え下さい。実費等を頂く場合があるので多少前後しますが、多くても〇万円以上はいかないのでご安心ください。」

A 「わかりました。報酬の支払いは先に必要ですか?」

私 「報酬の支払いについてですが、請求の段階で先に半額をご入金いただきます。そして、受給決定があったのちに、残りの報酬をお支払いいただきます。うちの事務所は成功報酬で追加の費用は発生せず、定額となってます」

A 「わかりました。」

私 「ご理解ありがとうございます。では、まず私は、年金事務所での納付要件等の確認、診断書及び証明依頼文の作成に取り掛かりたいと思います。あと、病歴・就労状況等申立書の原案を作成しますので、後日一度ご確認いただく予定です。」

A 「いろいろとありがとうございます。いままで少しも進まなかった手続きが進みそうで希望が見えました。妻もよろこんでいます。どうぞよろしくお願いします」

AとBが事務所を出ていき、面談は終了となる。

障害年金の代理請求業務について、その進め方は各社労士によって大きく変わるかと思います。私の事務所は、いたってシンプルで、面談・ヒアリング⇒年金事務所で納付要件の確認、診断書の形式的チェック⇒病歴・就労状況等申立書や請求書の作成⇒年金事務所に提出、という流れです。主力業務ではありませんが、過去年金事務所の社労士ブースで年金相談をやっていたのでわりと業務になじみがあり、縁がある方のみお手伝いをさせていただいている状態です。(障害年金業務をビジネスとして割り切ってできないのが正直なところです。)

その②へ続く・・・