社会保険労務士(以下、社労士)という資格・仕事の存在を始めて知ったのは、私が地元の税理士事務所に就職した28歳の頃でした。
都内の4年生大学(法学部)を卒業し、20代前半はバイトをしながら司法試験の勉強をしていた私にとって、社労士という資格・仕事とはまったく無縁の生活をしてきました。
一応、弁護士になるという目標で日々生活していましたので、まさか自分が社労士になるとは夢にも思っていません。
今となってみれば、社労士というおもしろく自分に合った資格・仕事に出会えたのは本当にラッキーだったと思います。
社労士資格を知るきっかけとなった税理士事務所への就職
そもそも法律畑を歩んできた自分が、社労士資格との出会いのきっかけとなった税理士事務所へ就職した理由は、「税金の分野を苦手にしたくない」と思ったからです。
20代の頃から、将来は何かしら独立して仕事をしたいと思っていました。弁護士なのか、違う資格業なのか、または全くジャンルの違う分野での独立なのか。
いずれにしても、自分で仕事をしていくには「税金」との関係がついて回るだろうと予想していました。
ただ、当時の世間知らずの自分は、税金の「ぜ」の字もしらないド素人。せっかく自分で独立して仕事をしていても、税金という分野を自分の弱点にしたままではいやだなぁと強く思いました。
そこで、「得意にまではならなくてもいいから、一般的な水準まで税についてわかるようになろう!」と思い、税理士事務所への就職を決めたのです。
小さい頃にそろばんを習っていましたが、仕事ので「税金」に携わるのは初めてでした。
簿記すらしらない自分でしたが、「茨の道をあえて進みたい」という変な性格が災いして、税理士事務所の門を叩いたのです。
税理士事務所勤務1年目はとてもきつかったですね。汗
簿記の「ぼ」の字もわかりませんし、貸借対照表・損益計算書などもわかりません。
現金主義?発生主義?決算?年末調整?確定申告?
何から何までわからないところから、一歩ずつ仕事に取り組みました。
「ケビン君、君は使えないね~~」「数字だめだねぇ」「気も利かないね~」
メンタルにダメージを与えられる言葉などに耐えながら、仕事に集中。
「自分であえて茨の道を選んだんだから、しょうがないじゃん。」と自分に言い聞かせ、
短期で税金を覚えるためにはこれくらいのプレッシャーのなかじゃないとモノに出来ないと割り切りました。
簿記の3級と2級を独学で勉強し、合格することでなんとか籍を置いてもらい、自分の居場所を確保した1年目でした。
社会保険労務士(社労士)という資格を知る
日々の仕事についていくのがやっとの1年目。
生存をかけた毎日を送る中、「社会保険労務士(社労士)」という仕事・資格の存在を意識するようになった出来事が多くありました。それは、担当する法人のお客さんとの会話の中で、税務に関する質問だけでなく、人事労務(雇用保険・社会保険・年金など)に関する質問までもが容赦なく飛んでくること。
「〇〇についてですね。すみません、間違いがあったらいけませんので、一度事務所で確認をとってから返答致しますので、しばらくお待ちください。」と、何度言ったことだろうか。
税務会計業務でさえ1年目なのに、労働基準法や社会保険・雇用保険関連の知識なんてまったくのゼロ。とにかく、税務会計知識だけでなく広く人事労務関連の知識まで求められていると痛感しました。
私の就職した税理士事務所は、所長が社労士登録もしていたため、「専門外ですからお答えできません」とは口が裂けても言えません。
(ちなみに、確か昭和56年より前に税理士登録した税理士は、社会保険労務士登録も可能でした。うちの所長も昭和56年より前の税理士登録なので、同時に社労士登録も。税理士業務が本業で、社労士業務は付属業務のような位置づけの事務所でした)
税理士事務所は、お客さんからの質問を一手に引き受ける何でも屋の存在でもある。
「会計事務所に聞けばなんでもわかる!」
税務に関するものだけでなく、会社に届いたあらゆる書類についてわからないことがあれば、すぐに「〇〇の書類が届いたけど、なんだかわからないから教えてくれるかな?」と電話を頂く。
頼られることは本当にありがたい。
はじめは、お客さんからの質問をそのまま事務所の先輩に伝え、その回答をお客さんに伝えるというようなことを繰り返していました。
いわゆる伝書鳩です。
先輩に聞いたことをそのまま伝える。その伝える内容についてはあまりよくわかっていませんでしたので、「~と事務所の先輩が言っておりました」という回答でした。
はじめのうちは、これでよかったのです。
「とりあえず先輩の言ったことを伝えておけば間違いない」
「税理士事務所1年生の自分は、本業の会計業務が半人前以下でそれどころでない」
「よくわからない事について、責任を持ちたくない」
などと、会計業務以外の質問について距離を置いていました。
先輩に任せておけばノープロブレム!!
しかし、そのうち自分も「わからないことを伝える」ことが気持ち悪くなってきてしまいました。
自分の仕事の範疇に、わからない分野がある。そのこと自体にもやもや感というか、スッキリしない重い気持ちがあふれ出しているのがよくわかりました。
よくわからない苦手な分野があるのが嫌。
税理士事務所に就職したのも、「税金」という重要テーマを自分の弱点にしておくのが嫌だったのが理由でした。
ここにきて、「税務知識以外で多く質問される人事労務関連分野について苦手なまま会計人生を送るのものいかがなものか?」という、いつもの癖が出てきたのです。
「よーし、いっちょ勉強しようか。」
いろいろ調べてみると、人事労務関連知識を学んでいった先に「社会保険労務士」という資格があることを知ったのです。
社労士資格に興味が出て、とりあえず社労士試験に申し込んでみる
「社会保険労務士」
いったいどんな仕事をする人なのか。しらべても全くイメージできませんでした。
ひとまず、日々の仕事に役立てるために、税務会計の知識の勉強に加えて、社労士試験の受験科目になっているものを勉強してみようと思ったのがスタートでした。
税理士事務所の仕事の繁忙期の一つが、毎年2~3月頃の確定申告です。
この時期はさすがに社労士の勉強まで手が出なかったので、確定申告がひと段落した3月下旬ころから近くの書店をウロウロして、社労士試験関連書籍を調べ始めました。
勉強方法は独学です。
地方なので、近くに社労士受験予備校のようなものもありませんでしたし、今のようにネット配信授業なんてものもありませんでした。
したがって、通学や通信といった方法を選択することは難しかったですし、どちらかというと、その頃は独学の勉強方法が確立していたので始めから独学の一択でした。
労働基準法、労働者災害補償保険法、雇用保険法、労働保険徴収法、労働安全衛生法、健康保険法、国民年金法、厚生年金保険法、などなど、はじめはチンプンカンプンで、なによりもイメージが沸かないので苦労しました。
会社にいて、人事労務に常日頃携わっている人であればイメージは沸くと思いますが、それまで無縁の生活をしてきた自分にとっては全然ダメでした。
はじめは各科目のイメージをつけるために、各科目の漫画を購入しました。
その当時使った勉強用の漫画は今も売っているのでしょうか?
おぼろげには全体像をつかめたように思いますが、なにしろその漫画自体がつまらなかったので、読むのは苦痛だったと記憶しています(法律の漫画なので無理もないのですが汗)
毎年8月に試験があると知り、一応ゴールデンウイーク明けに社労士試験の受験申込だけしました。
まったく勉強は進んでいませんが、
「万が一のミラクルがあるかも!」
と思い申し込みました。
結果としては、申し込み1年目は受験会場へ行くことすらできませんでした。
勉強も進んでいませんでしたし、それよりも、本業の税務会計業務でいまいち成果が上がらず、
「ケビン君はだめだねぇ」「〇〇もわからないの??」「もっとやる気をださなきゃ」
「やる気が感じられない」「数字に弱いね」
などの厳しい指導を正面から受け続け、社労士試験どころではありませんでした。
書店巡りは好きで、本当は社労士試験コーナーをじっくりゆっくり見て自分にぴったりな基本書等を選びたかったのですが、今の仕事に食らいつくために、税務コーナーに足しげく通い、税務関連本を購入して読みふける毎日を送っていました。
キャリアチェンジのきっかけはいつやってくるかわからない
現在私は、社会保険労務士(社労士)として仕事をしていますが、東京から地元にもどり税理士事務所に就職した当時の自分からは全く想像しなかった道を歩んでいます。
社労士という存在自体知らなかった私ですが、たまたま税理士事務所に入り、たまたま社労士資格の存在を知ったことで、自分の生涯の仕事に出会うことができました。
まさに奇跡。
人生、いつどのようなタイミングでターニングポイントに遭遇するかは分かりません。
今後も、いつ次のターニングポイントがやってくるかも分かりません。
しかし、「ここぞ!」というときに自分の納得のいく道を選べるように、常日頃から最善の努力を積んでいきたいと思います。